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誰も知らない

誰も知らない
/ バンダイビジュアル




生れてきて限りない青空にみつめられたから

きみたちは生きている

生れてきて手をつなぐことを覚えたから

きみたちは寄り添う

生れてきて失うことを知ったから

それでも明日はあると知ったから

きみたちは誰もしらない自分を生きる  


                         谷川俊太郎


見てきました。
いろんな事を感じてきました。
そしてやっぱり泣いてきました。
隣のご夫人は泣きっぱなしでしたが、私は3回くらいはらはらと涙しました。
子ども達の演技というか漂う空気が自然なんですよね。
最初にキチッとした脚本があるのではなく、その場その場で話し合いながら積み上げていったストーリーだったようです。
自然な演技を引き出すために、ほとんど自然光だけでこっそりと覗きこむようなドキュメンタリーちっくな画がまた自然に見えて良かったです。
約1年かけて撮ったらしいので、四季の移り変わりや子ども達のちょっとした成長もほんものさがありました。
髪が伸びたりしていたのもほんものなんだろうな。

ここからはネタバレを含んだ感想です。
見る予定の人はご注意ください。
あ、あとちょっと長くなりそうです。(苦笑)

カンヌ国際映画祭2004年男優賞柳楽優弥、日本初カンヌ史上最年少で受賞というこれ以上ない看板をぶらさげて封切られたこの映画は、1988年「西巣鴨子供4人置き去り事件」をモチーフにしています。
当時、無責任な母親を叱責する報道が多かった中、是枝監督が気に留めたのは「お兄ちゃんは優しかった」という子供たちの証言だったそうです。
そこから、世間から見れば悲惨としか思えない子供たちだけの暮らしの中にも、幸せな時間が流れていたことをイメージし、本作品へと繋がったということでした。
監督自身が最初に断っているのは、この作品は実際に起きた事件に触発されて、監督が自由にイマジネーションを展開させたフィクションである、と。
音楽はゴンチチでした。

少年が電車の中でスーツケースを持ってゴトゴト揺られているシーンから始まります。
12歳の少年がたった一人で背負うにはあまりにも重く切ない責任を背負ってきたことを私はまだ知りませんでした。

すぐに引っ越しの挨拶に場面は変わります。
母けい子は大家に、父親が海外赴任中のため長男明と二人暮らしだと言って・・・
トラックからアパートに運び込まれてゆく荷物の中に明が大事そうに運ぶ大きなスーツケースが二つありました。
中から出てきたのは幼い弟妹。
母子家庭で4人も子供がいると知られれば、またこの家も追い出されかねないから。
その夜の食卓で母は子供たちに「大きな声で騒がない」「ベランダや外に出ない」という新しい家でのルールを言い聞かせます。
外が大好きな子どもにとって、悲しい約束であろうはずなのに末っ子のゆきちゃんは笑顔で「できる・・・」って約束するんです。
食卓には明るい空気さえ漂っていて・・・
母親役がYOUというのが適役だったように思います。
彼女独特のほんわかした雰囲気が、精神的にまだ幼稚で、だからこそ本気で子供たちを愛している女性をうまく表現していて、そして子ども達も母親を慕っているのがよくわかりました。
みんなの屈託のない笑顔から家族一緒にいる時間の幸せ感が伝わってきました。
子供たちの父親はみな別々で、学校に通ったこともないんです。
それでも母がデパートで働き、12歳の明が母親代わりに家事をすることで、家族5人は彼らなりに幸せな毎日を過ごしていました。
そんなある日、母は明に「今、好きな人がいるの」と告げます。今度こそ結婚することになれば、もっと大きな家にみんな一緒に住んで、学校にも行けるようになるから、と。
ある晩遅くに酔って帰ってきた母は、突然それぞれの父親の話を始めるんです。
楽しそうな母親の様子に、寝ているところを起こされた子供たちも自然と顔がほころんでいきます。
京子ちゃんには真赤なマニキュアを塗ってあげて・・・
でも翌朝になると母の姿は消えていて、代わりに20万円の現金と「お母さんはしばらく留守にします。京子、茂、ゆきをよろしくね」と明に宛てたメモが残されていました。
この日から誰も知らない4人の子供たちだけの生活が始まります。

明は妹弟を守るために淡々と自分に出来る限りのことを行っていきます。
小さくてとても狭い自分達の世界を守るために。
その前向きな生命力に感動を覚えました。
一緒に住めなくなるからと警察や福祉事務所などに助けを求めず、自分の妹弟を必死に守ろうとする強い兄だけど、遊びに走ってしまうシーンがあったりして少年が持っている心の弱さもちゃんと描かれていました。
硬い表情と目の明が、友達や学校にほんの少しだけ触れた時にみせる笑顔が逆に切なく感じたりもして。
柳楽くんの表情、特に眼はホントにきれいで、人の心を見抜く目でした。ドキドキする視線です。
私が一番泣けたのは、みんなで公園に遊びに行くシーンでした。
下駄箱からそれぞれの靴を明が出してあげます。
靴を履くと言う当たり前のことが幼い弟妹たちにはとても大きな幸福で・・・
少し違いますが、以前長く入院を入ていた時に外出許可が下りて靴を履いた時、言葉に出来ないくらい嬉しかったことを思い出しました。
コンビニで嬉しそうに買い物をして、公園で幸せそうに走り回ります。
普通の子どもが毎日のようにしていることが、大きな喜びで・・・
胸がいっぱいになって涙が溢れてきました。
帰りに雑草の種と土を持って帰ります。
カップラーメンの空のカップに種をまいてベランダで育てるんです。
育った雑草がまた泣かせるんです。
小道具の使い方がとても上手い監督さんだなと思いました。
マニキュアだったり、玩具のピアノだったり・・・

そしてあの歌。 「宝石」
そうそうこれ歌ったタテタカコさんって、コンビニの店員の役だったんです。
パンフレットを見てびっくりしました。
彼女の少し乾いた低いトーンの歌がとてもよかったです。

そら
タテタカコ 村松晃 / バップ



「宝石」 作詞・作曲 タテタカコ

      真夜中の空に問いかけてみても
           ただ星が輝くだけ
      心から溶け出した黒い湖へと
           流されていくだけ

      もう一度天使はボクにふりむくかい?
       僕の心で水浴びをするかい?
      やがてくる冬の嵐に波が揺られて
          闇の中へぼくを誘う

         氷のように枯れた瞳で
          僕は大きくなっていく
         だれもよせつけられない
           異臭を放った宝石



終盤はとても辛いんです。
空を見上げて飛行機を目で追う明に、これから先飛行機を見る度に背負ってしまった過去を思い出すんじゃないかしらと切なくなりました。

おとなを疑わない幼い子ども。
私も以前、しつこいセールスの人に嘘をついたのをチョコに聞かれてしまい、「おかあちゃんが嘘ついたからびっくりした。お母ちゃんでも嘘つくんだ。」と言われ(しまったっ!)と思ったことを思い出しました。
大人は子どもたちを裏切ってはいけないのだと、この映画を見てまた痛感しました。
子どもは大人の心を見すかすフシギな能力を持っているんでしょうね。
誤魔化しのきかない子どもの目に反射する自分の姿をもう一度見つめ直そうかしら・・・そんな気になった映画でした。
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by webwing | 2004-10-01 00:00 | 2004年劇場版